いい会社とは何か?:「都市×会社」2.0 ⑤
【内容】
「はたらく事」の意味の変遷
日本人の仕事観
現代の「働きやすさ」と「いい会社」
1.「はたらく事」の意味の変遷
西洋社会における代表的な思想と労働観についてまとめると、下記のようになります。
古代では、肉体的活動を伴う労苦は、社会の底辺として、奴隷が行うものとして位置づけられていました。
中世においては、キリスト教の倫理観と結びつき、「労働は、人々が怠惰な方向に流れることを防ぐ救済である」という見方が広がり、重要な宗教活動と位置付けられます。
近代においては、産業革命と資本主義経済の確立により、「労働は成功を目指すための手段」と考えられます。
現代では、労働は「細分化」と「簡素化」により、労働者の価値低下が進んでいます。巨大化・複雑化する社会システムや経済活動の中で、労働の達成感・実効感が損なわれています。これに対応するため、承認欲求と自己表現を労働のモチベーションにする傾向も強くなっています。
このように労働観や労働環境は時代とともに変化してきました。
2.日本人の仕事観
日本では「働く」ということに関して、仏教と儒教の影響が強いといわれます。
まず仏教的では、禅宗の創始者である道元が、「人は働くにあたって修行と作法が大切である」としています。さらに「強制ではなく、自由に他者に奉仕しうる仕事に従事することが、最も人間にとって至福なこと」と説いています。
現代風に言えば、ボランティア活動に専念することが、最も崇高な働き方ということになります。
少なくとも、報酬だけを求めることに目的を置いた働き方を、さほど評価しないのが、日本の仏教からの教えと言えます。
さらに江戸時代になると、儒教の論理を活用し、人々の間での長幼の序の規定、男尊女卑、規律重視などの社会風習が支配するようになります。
石田梅岩による「石門哲学」において、働く上では、士農工商の各々における哲学として「道」の重要性が説かれました。
3.現代の「いい会社」
学生の就職活動では、これまで「いい会社=働きやすさ」が求められ、客観的な指標として、「利益率の高さ、給与の高さ、労働時間の短さ、雇用形態の多様性」などが重視されてきました。
近年では、「働きやすさ」とともに「働きがい」も重視されるようになってきています。
働きやすさ:精神面での「波長の合う風土・文化」、物質面での「融通の効く労働環境」が挙げられます。
働きがい:精神面での「機会と誇りのある仕事内容」、物質面での「納得のいく金銭報酬」が挙げられます。
近年注目される「ステイクホルダー資本主義」の考え方では、「①社員とその家族」はもちろん、「②仕入れ先・協力企業とその家族」「③現在顧客と未来顧客」「④地域住民・とりわけ社会的弱者」「⑤出資者及び支援者」など全方位での貢献が求められます。
「会社」における仕事内容の拡大・複雑化とともに、働き手の実効感は低下します。その上で「都市」などの地域住民を含む、全方位での貢献も求められると言う矛盾が、顕在化しているのです。
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