【内容】
文化庁によるミュージアム改革
行政と民間との温度差
1.文化庁によるミュージアム改革
文化庁は、2018年(平成30年)に「社会的・経済的価値をはぐくむ文化政策への転換」を打ち出しました。
これは、簡単に言えば「文化で稼ぐ」という宣言です。
近年、ミュージアムを取り巻く環境は大きく変化しました。
「観光立国」「地方創生」が推進され、ミュージアムの観光施設化と指定管理者制度を基軸にして、「自立採算」が強く求められるようになったのです。
監督所管も教育委員会から、首長部局への移管が求められています。
ミュージアムにおける「次世代の文化拠点としてのあり方」が、問われているのです。
地域の人口が少なくなれば、当然税収も減ります。
税収が好調な時代に、いたずらに建設してしまったハコモノの変革が急務な状況です。
文化庁の方針は、2015年にUNESCOが提示した「ミュージアムとコレクションの保存活用、その多様性における役割に関する勧告」を、基盤にしています。
この中では、「ミュージアムは経済的な発展、とりわけ文化産業や創造産業、または観光を通じた発展をも支援する(第2条)」と述べられています。
日本だけでなく、世界の潮流として、ミュージアムに、「文化産業や創造産業と観光などを通じて、利益を上げる事」が、求められているのです。
これからのミュージアム運営は、社会教育施設としてだけではなく、産業施設でもあるという認識が不可欠なのです。
2.行政と民間との温度差
ある政令指定都市の、文化施設のコンセッションに関する、ヒヤリングをお手伝いしたことがあります。
街の中心部に立つ文化施設について、政策担当者が地元企業に対して、コンセッション事業の打診したところ、思わしい感触を得られなかったため、文化庁を通じて「東京の大手企業にヒヤリングしたい」という依頼でした。
私たちが紹介した、大手ディベロッパーや総合商社へのヒヤリングでも、「現行の条件では、コンセッション事業として成立が難しい」という意見が大半を占めるという結果でした。
「都市公園の区域内で、事業施設の選択肢が少ないこと」「収益事業と位置付ける隣接ホテルも、現状では文化施設との相乗効果が見込めないこと」などが、その理由として挙げられました。
従来の枠組みの中で、収益化を図ろうとする「行政」と、継続的な収益化のためには、より柔軟な運営が必要と判断する「民間」との温度差が明らかになりました。
単なるミュージアムの切り売りでは、難しいということです。
オープンイノベーションにおける「大企業」と「スタートアップ」との間にある隙間風によく似ていると感じました。
大企業がオープンイノベーションを「出島」化させて推進しているように、この温度差・隙間を埋めていくには、一種の「特区」化が必要だと考えます。
本シリーズでは、このような認識をもとに、ミュージアムなどの文化施設の活用事業における課題と解決方策について、検討していきたいと思います。
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