宗教や哲学的には「生の意義は、他者との関わりを通じた進化にある」と言われます。他者との様々な関わりのうちオンラインで賄えるのは既存×内面による「思索・習熟」の一部のみで、リアル無しではその他の「教示・伝習や出会い・発見」などの機会が大きく欠落してしまうのです。
オンライン1stの生活が可能になれば、通勤をはじめ買い物など役務としての都市への移動は必要なくなりそうですが、人・モノ・環境との五感による包括的な情報交流機会としてリアル世界が必要です。自分一人が「脳内生活」で紡ぎ出す妄想ストーリーに陥らないために、そしてネット上でアルゴリズムが生み出すフィルターバブル情報に塗れた「想念肥満」になることを予防するためには、敢えて都市に移動し人・モノ・環境との実感交流を経て、しなやかな思考を練り上げていく必要があるのではないでしょうか。
個人が進化する舞台としての都市の主役は「街ぎわプレイス」になります。街ぎわプレイスとは街路とその両側の建物低層部からなり、都市のユーザー活動が最も活発な場所です。
そこで多様な人々の営みを眺めながら佇めたり、知己との対話や偶然の出会いを楽しみながら交流できたり、突然のハプニングを含めて出会いや発見を通じてワクワクできたりする都市が魅力を放つと考えます。
もちろん都市の様々な機能の大部分は建物の中にあります。新しい知見と出会えるミュージアムや図書館・書店や、お酒や食事を介しながら出会い対話するクラブ・バー・カフェ・レストランなどが想定されますが、いずれも内部で活動が完結してしまっては、新しい実感交流を通じた進化は生まれません。街ぎわプレイスでのやり取りを通じて他の場所での活動と混じり合い、化学反応のように進化していくのだと考えます。
街ぎわプレイスはユーザーとともに共創・表現するライブ会場であり、厳選された商品・サービスがアーカイブされたミュージアムにもなる都市コンテンツの受発信拠点なのです。街ぎわプレイスでの進化を促進するためには、ユーザーの好みや想いに刺激を与える昼夜や季節の変化を活用する事が有効です。
均質なホワイトキューブではなく、地域(空間)的なつながりや歴史(時間)的な文脈を継承した「曲のある環境」が優位に働くのです。創造性を刺激する沢山のフックを織り込まれた環境が求められるのだと考えます。
これからはユーザーを刺激するフックとして、真実性(相応しさ)と歴史性(サスティナビリティ)とが重視されるようになると言われます。「世界観とストーリー」を纏ったリアル環境をショールームのように生かして、オンライン上でファン(=経済価値)を獲得していくことが有効になります。
近代都市は人間に文明として合理性と利便性とを与えてきました。これからは人間が文化として土地の曲を生かしながらコンテンツを上書きしていく番です。個人と個人とがお互いに情報を受発信し輝き合える、更に総体として人間と都市とが輝き合える状況こそ次世代の都市づくりのゴールであると考えます。
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