都市における共感人口施策は、シビックプライドやソーシャルキャピタルの議論とも連携してくると考えます。ソーシャルキャピタルとは「人と人の繋がりが地域の資産になる」という考え方で、ネットワーク(人脈)・互酬規範(助け合い)・信頼の三要素から構成されます。人々の協力関係の促進が、社会を円滑に機能させるというモノです。その効用として、安心・安全領域では犯罪率の低下や落書きなどの防止、さらには防災や災害復興への効果が想定されます。経済・ビジネス領域では信頼関係に基づく取引コストの低減や、起業・新規開業の促進に伴う失業率の低下が考えられます。そして健康・福祉領域では人付き合いや健康増進活動の促進による健康長寿化や出生率の向上が期待されます。
これらの効用は共感人口ともかなり重複していますが、ソーシャルキャピタルが「地縁」を起点にしていることが分かります。「地縁」ではなく「知縁」を元にした共感人口の構築こそ、自由とつながりを両立させる次世代の都市戦略ではないでしょうか。
次世代の都市づくりにおいては、リアルな建物や機能によるハード指標を求めるだけでなく、生業を中心とした人の活動やコンテンツによってソフト指標を高め、関係人口を育み価値化を図る事が重要になります。 交通利便性や高い容積率を追求するだけでなく「世界観とストーリー価値」が評価されるようになるのです。建築分野での先進例になりますが、赤坂離宮前の「虎屋本店」は10階建ての近代的なビルから、自然素材をふんだんに使用した4階建ての社屋に建て替えられましたし、KADOKAWAは飯田橋の本社を移転し、本棚劇場などの文化施設を含む「ところざわサクラタウン」を開発しました。それぞれ自社のDNAを踏まえ、将来に向けたサスティナビリティを考えた上で、強みに磨きをかける選択だといえます。東京大学の小泉秀樹教授が指摘される「これからは真実性(アイデンティティ)と歴史性(サスティナビリティ)とが重視されるようになる」の好例で、「世界観とストーリー」を纏ったリアル都市をショールームのように生かして、オンライン上で共感人口(=バーチャル住民)を獲得していこうという戦略です。次世代の都市文化を発信するには、均質なホワイトキューブではなく、地域(空間)的なつながりや歴史(時間)的な文脈を継承した「曲のある街」が優位に働くのです。これからは創造力を刺激する沢山のフックが織り込まれた環境が求められるのです。近代都市は「文明」として合理性と利便性とを提供してきましたが、これからは人間が「文化」として土地の曲を生かしながらコンテンツを上書きしていく時代です。個人と個人とがお互いに情報を受発信し輝き合える、更に総体として人間と都市とが輝き合える状況こそ、共感人口に対応した都市づくりのゴールであると考えます。
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