【内容】
弱み補修より強み増強
魅力資源を発掘して(1/100)3で磨く
「メタ観光」視点の有効性と課題
1.エリアクオリア向上の視点
エリアクオリア指標は「わざわざ繰り返し街を訪れる人(街のファン)を増やす事」をゴールにした街づくりを推進します。
ですから「街の強みを増強」していく方策を重視しています。
従来の街づくりでは、行政的にも住民中心主義のため、日常生活における課題解決を、第一に据えて検討されてきました。
課題解決はもちろん大切ですが、それだけでは、「平均点止まり」の街づくりがゴールになってしまいます。
スマートシティ政策の重要指標とされる「Livable Wellbeing City指標」も、シンガポールやオーストラリアでの都市開発指針を元にしているため、平均的な街づくりを目指す指標になっています。
成熟社会において集ファンしていくには、「弱みの補修」よりも「強みの増強」を重視する施策が有効なのだと考えます。
2.魅力資源を発掘して(1/100)3で磨く
「強みの増強方策」として近年の街づくりでは、「我が街の魅力再発見」と題した住民ワークショップが開催され、地元の隠れた資源を発見しする作業が行われます。
地元の隠れた「名人、名所、名物」を発掘することは必要ですが、それを可視化しただけでは、集ファンは望めません。
発掘した資源に磨きをかける必要があるのです。
この魅力資源に磨きをかける際に有効なのが、(1/100)3乗戦略です。
「(1/100)3乗=100万分の1」の戦略は、教育研究家の藤原和博氏やクリエイティブディレクターの佐藤尚之氏が提唱しているセルフブランディング論です。
単独分野で「100万分の1」を目指して同じ領域で何十年も頑張るよりも、1/100を複数(例えば3領域)持つことを目指す方が、楽しいし、リスクも少ないという考え方です。
走力で言うと「100万分の1」を目指すには日本トップクラスの実力が必要ですが、「1/100」と考えれば学校の2〜3クラスで一番のレベルになります。これと掛け算になる個性を見つけて磨きをかけていく訳です。
例えば陸上選手の為末大氏のように日本最速でなくても「足が早い」×「科学的トレーニングに精通している」×「パラスポーツ・ネットワークを持つ」となると、他者が追随できない ONLY ONE的な存在になれるという訳です。
街の魅力資源においても、資源そのものの潜在力に加えて、第二、第三の評価軸をどう発見・設定し、磨きあげて行くかが重要だという事です。
3.「メタ観光」視点の有効性と課題
街の潜在力を見える化するためのもう一つの視点が、角川アスキー総研の玉置泰紀さんたちが提唱するメタ観光的な視点「場所の複層思考」です。
例えば神田の甘味処「たけむら」は東京都の文化財であるとともに、池波正太郎のエッセイに登場したり、仮面ライダーやラブライブのモデルやポケモンGOのモンスター出現ポイントにもなっています。
このようにその場所が持つ歴史やコンテンツを複層的に見える化していくと、街に新しい発見が生まれこれまでにない観光資源がストックされます。
玉置さんたちは、牧野友衛氏を代表にして「メタ観光推進機構」を立ち上げました。
メタ観光推進機構は、複層的な情報を「メタ観光マップ」として新しい観光プラットフォーム化し、着地型ツアーの開発支援を通じた活性化を目指しています。
「メタ観光」は観光資源を増やすとともに、どのような場所にも複層的な魅力があるという視点を持つことによって、表層的な観光要素だけでなく、そのつながりの意味や所以に思いを巡らせるスキルが養われます。
このメタ思考スキルで捉えると、あらゆる店・場所・街の隠れた魅力を見出すことができる「自分の進化」に気づきます。
「面白きこともなき世を面白くするは、住みなすものの心なりけり」とは幕末の志士高杉晋作の言葉とされていますが、まさにこのメタ思考スキルで「面白がれる人」が増えることによって、面白がれる視点が広がり、面白い場所が増え、より多くの人が面白がれる街に変わるのです。
このように街の魅力を磨き上げる視点はあるのですが、これを普及させるためのプログラムが未整備です。
メタ観光についても、現在は地道なワークショップやツアーを展開している状況です。
このやり方では、一度に数十人しか参加できません。
より幅広い人たちを巻き込むためには、検定や資格制度などのプログラムの仕組み化が不可欠だと考えます。
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