【内容】
日本型のスタートアップ育成
「点」の支援から「線・面」の支援へ
街と補完・相乗化するための3方策
1.日本型のスタートアップ育成
「起業」を望ましい職業選択と考える人の割合は、中国79%、米国68%に対し、日本25%(内閣府:新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画2023改訂版)と主要国の中で最も低い水準です。
また企業の参入率・廃業率の平均(創造的破壊指標)が高いほど、一人当たりの GDP成長率が高いというデータ(内閣府:スタートアップに関する基礎資料)でも、日本は開業率・廃業率ともに低い水準にとどまっています。
さらにスタートアップの成長目線も、本来であれば医療や金融など独自の法規制の強い領域を除けば、最初から大きな規模を狙えるグロ―バル市場を念頭に成長を目指した方が良いはずです。
しかし日本の場合は、はじめから海外市場に展開するのではなく、国内市場に注力するケースが多いといわれます。
また近年 地域の社会課題をビジネスチャンスに変える「ローカル・ゼブラ企業」が注目を集め出しています。
ゼブラ企業とはユニコーン企業のアンチテーゼとして2017年に米国で提唱された「社会課題解決と経済成長の共立」を目指す企業のことです。
中小企業庁が推進するように、日本の場合はユニコーンよりも、「ローカルゼブラ企業」の育成の方が、親和性が高いのかも知れません。
2.「点」の支援から「線・面」の支援へ
前述のような「日本型スタートアップの推進」に対しては、従来のように「単に場の提供(点的支援)」だけでは、十分ではありません。
スタートアップ支援には、まず起業家が集まる素地が必要で、次に各ステージで必要なアドバイスや人材・資金を提供しながら成長させ、巣立っていくまでの「一連の時系列に沿った(線的な)支援」が必要です。
さらに信用もお金もない時期に、街なかで実証実験や試験提供しながらエビデンスを作っていく必要がありますし、働く場所だけでなく、安価な食住を含めた生活全般(面的)の支援も求められます。
「点」の支援から「線・面」の支援が必要になってきています。
スタートアップ支援とは、ある意味「学生」や「アーティスト」を支援するのと同義と考えるべきでは無いでしょうか。
私が若い頃住んでいた京都では、「学割」という慣習が根付いていました。
先斗町などの飲食店では、学生はもちろん大学に勤務する職員を含めて、大学に対するリスペクトがあり、割安料金でサービスを受けることが出来ました。
高級料亭でも、料理を入り口や器は異なりますが、十分の一程度の料金で食べさせてくれることもありました。
広義の学生街にあるのは、いずれも「出世払い」や「将来の顧客化」を期待しての「寛容な精神」といえます。
産業のエコシステムというと、ビジネス関連の連携ばかりに目が行きがちですが、本来は「人を育てる風土」こそが大切だったのではないでしょうか。
3.街と補完・相乗化するための3方策
上記のような環境を一企業の施設単体で提供することは不可能で、街ぐるみでの風土づくりが必要です。
これからのスタートアップ支援施設は街との補完・相乗化が不可欠だと言うことです。
この論考では、前述のような認識のもとで具体化する方策として、下記の三点を提案します。
方先1:インキュベーション・キャンパス
方策2:次世代エリアマネジメント
方策3:行政との連携による産業ディベロップメント
以降の回で各施策の詳細を説明します。
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