【内容】
「推し旅」というモチベーション
JR東海の「推し旅」企画
「おてつたび」の可能性
1.「推し旅」というモチベーション
「推し旅{=推し×旅行}」は、狭義にはいわゆる「聖地巡礼」が挙げられます。
元々は宗教において、重要な意味を持つ「聖地」赴く行為(=巡礼)から転じて、ドラマや映画・小説の舞台になった土地、スポーツなどの名勝負が行われた競技場など、ファンにとって思い入れのある場所を「聖地」として訪れる旅行形態を指します。
事例としては、NHKの大河ドラマや連続テレビ小説の舞台になる街や、1980年代の大林宣彦監督の「尾道三部作」のロケ地巡りや、「北の国から」の舞台になった北海道富良野市に、聖地巡礼の萌芽が見られます。
アニメでは、「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」あたりから注目されるようになりますが、実際の風景や建物を精密にトレースしてアニメを作る手法の、映画「君の名は」の大ヒットによって、「聖地巡礼」が浸透します。
2016年には、「アニメツーリズム協会」が設立され、「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」を公表する様になりました。
2.JR東海の「推し旅」企画
コロナ禍で、定番の観光地に大量の観光客を送り込むキャンペーンが、難しくなった事をきっかけにして、JR東海は2021年に「推し旅アップデート」という企画を展開します。具体的には、
「象主」企画:愛知県豊橋市の動植物園「のんほいパーク」で飼育している
6頭のゾウの「象主」になるプランで、象主認定や飼育体験などが得られます。一人30万円と高額にも関わらず、46人の応募がありました。
「江川酒」企画:渋岡県伊豆の国市の「幻の酒・江川酒」について、酒米の田植え、稲刈り、醸造に参加してもらう企画です。
「真夜中の京都駅バックヤードツアー」:京都駅で最終列車の後、保線作業車を間近で見たり、警護対象者が利用する秘密の待合室を見学したりするツアーで、20人の募集に対して10倍の応募がありました。
このように、観光企画部門だけでなく、現場の社員も巻き込む取り組みによって、普段では得られない体験を提供しています。
3.「おてつたび」の可能性
「おてつたび」とは、「お手伝い」と「旅」とを掛け合わせた造語で、収穫期の農家やハイシーズンの旅館など、短期的・季節的に人手不足で困っている事業者と、「知らない地域へ行きたい」と思うような旅人とを、マッチングするサービスです。
お手伝いする事によって、最低賃金以上の報酬を得られ、旅行費用を節減する事が可能になります。
また、「お手伝い」という新しい目的を地方に作る事によって、観光名所がない地域にも、人が訪れる仕組みを作る事ができます。
地元の人との交流を通じて、地域のファンになって貰えるという特長があります。
おてつたびの登録者数は約4.3万人(2023年7月)と、コロナ禍前の5.3倍に増えたといいます。
「推し旅」は、もともとインドア派だった人たちが、外出するきっかけにもなっています。
コロナ禍を通じて「リアルな体験」の大切さに改めて気づいた今、観光市場は、インバウンドを含め、日本の数少ない成長市場として、非常に期待されています。
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