【内容】
標準設計の功罪
シェアハウスの可能性
次世代シェアハウス
1.標準設計の功罪
昭和30年代から40年代にかけて、都市部で働く地方出身の中流サラリーマン世帯に、良質な住宅を大量に供給するために、主として都市近郊に、数百から千世帯をこえる団地が次々と開発されました。
この大量の団地で供給されたのが、「標準設計51C型」という住宅です。
「標準設計51C型」は日本住宅公団が1951年に提案した住宅モデルで、夫婦と子供2人の4人家族を想定し、「寝食分離」という目指すべき暮らし方を提案したもので、50㎡程度2DKタイプで、ダイニングキッチンを備えていました。
極小住宅を研究して作られた、この標準設計により、調理、洗濯からトイレや風呂を含む必要機能が、コンパクトに収められた一方で、応接・接客機能が後退し、鉄の扉一枚で住戸の内と外が遮断されてしまいます。
この標準・量産型の住宅モデルは、時代の要請に対応して「〇 LDK」という形で大型化しますが、その後のマンション開発の雛形になります。
家族中心に自己完結した間取りによって、内と外との関わりは分離し、「集まって暮らすことの意義」が見直されることなく、固定化してしまいます。
2.シェアハウスの可能性
近年注目を浴びる住居形態に「シェアハウス」があります。
シェアハウスとは、一つの住居の中で、個室以外の共用部(リビング、キッチン、バスルーム、トイレ)などを複数人でシェアして暮らす賃貸住宅を指します。
社宅や学生寮、古民家などをリノベーションした物件が中心で、共用部に重質したキッチンやリビングなどの工夫を凝らし、独自性を打ち出しています。
特定の住民の利便性を高めるため、入居条件を絞ることもあります。
例えば、女性専用の物件では、女性のニーズに合わせて、広いパウダールーム
や高いセキュリティを完備したり、シニア専用では、バリアフリーに配慮したり、手すりをつけるなどの工夫をし、住民同士で安否の確認や支え合う事で注目を集めています。
その他、アウトドアや音楽などの趣味や、シングルマザーのキャリアアップや、子育て支援、海外からの留学生やビジネスマンなど、共通の目的や思考を持った住民同士で共同生活を送る「コンセプトシェアハウス」も増えてきました。
シェアハウスのメリットは、①住居費用が抑えられる。②住民同士でコミュニケーションが取れる。③共用部に家具家電が備わっている。などが挙げられます。
デメリットは、①同居者の生活リズムが合わないリスクがある。②プライバシーが確保しにくい。などです。
シェアハウスの特性は、「集まって暮らす意義」を考える上で、非常に参考になるのではないでしょうか。
3.次世代シェアハウス
以前あるプロジェクトで、成瀬・猪熊建築設計事務所が興味深いシェアハウスを提案していました。
大規模な集合住宅の一案として、メゾネット形式で、上階に個室とトイレ・シャワーなどを含む、最低限のプライベートスペースをまとめ、下階に、リビングやダイニング・キッチン、浴室などを用意しています。
プライベートスペースに複数の個室を用意することで、単身者だけでなく、子育て世帯にも対応可能になります。
この次世代シェアハウスであれば、プライベートを適度に確保しながら、日常的に住民間のコミュニーケーションが生まれます。
顔の見えるコミュニティで、子育てや見守りを支えることが可能になるのではないでしょうか。
家族単位で、各住戸を孤立させてしまった、標準設計の「殻を破る」アイディアだと考えます。
ここから生まれる「プチ公共意識」が、周辺に広がっていくことを期待します。
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