【内容】
アートプロジェクトのゴールとして「心の基礎体力」づくり
持続性あるアートプロジェクトのための方法論
1.アート街づくりのゴールとしての「心の基礎体力」づくり
ヨコハマ・トリエンナーレや別府現代芸術フェスティバル、埼玉トリエンナーレなどのアートプロジェクトのプロデューサーを務めた芹沢高志さんは、「アートプロジェクトのゴールは、地域をアートで飾り、観光客を増やす事では無い」と仰います。
アート街づくりの有力方策であるアートプロジェクトでは、地域に愛着を感じ、アーティストが移住したり、地域の人たちの視野が広がり、意識が変わることなどの効果が現れますが、芹沢さんが想定するゴールは「心の基礎体力を向上させる事」なのです。
基礎体力は、①瞬発力:運動を力強く速く行うための能力、②持久力:運動を長く続けるための能力、③バランス力:運動を調整する能力、と説明されています。
「心」にも同様の基礎体力が必要であり、アートとの関わりを通じて、これを向上させる事が重要だという事です。日常生活のルーティンの中で、減衰しがちな、複層思考・柔軟思考・飛躍思考などを、アートを通じて取り戻す必要があるということでは無いでしょうか。
2.持続性あるアートプロジェクトのための方法論
心の基礎体力を向上させるためには、アートプロジェクトを、一過性のイベントで終わらせないことが重要です。そのための持続性あるアートプロジェクトの方向性について、東京大学出口研究室の提案では、方法論、組織論、空間論の3点で留意すべき方法論が示されています。
A方法論的方向性
アートを「地域の魅力や課題を顕在化させるための表現手法」と捉え、地域のリサーチを踏まえたものとする事
アーティストを「地域の新しい見方を提示する人」と捉え、アート関係者や建築・都市計画系の専門家、地域住民とのコミュニケーションの機会を整備する事
アート街づくりを行う組織は、アートのクオリティコントロールに責任を持ち、ディレクターやキュレーターを中心に、アート作品・活動を地域に向けて咀嚼し、アーカイブを残し共有・発信する事
B組織論的方向性
①地域の文化芸術リテラシーを向上させるため、ディレクターやキュレーターを招聘し、アーティストのサポートと地域住民とのコミュニケーションを図る事
行政との協働を通じて、地域からの信頼を獲得しながら、適度な自律性を維持する事
C空間論的方向性
アーティストと地域住民との、日常的なコミュニケーション拠点空間を設ける事
地域の空間資源のプラットフォームを設け、アート活動が地域に溶け込むための小規模な機会を分散的に仕掛ける事
これらの方策を駆使することによって、アートプロジェクトに関連して、心の基礎体力が向上し、その人たちが繋がり、新しい動きを生み出す素地になっていきます。
アート街づくりのゴールは、心の基礎体力が高い人たちのコミュニティづくりと言えます。
具体的な施策の方向性として、「アート・イン施策」と「アート・アウト施策」に大別できますので、次回以降で詳細を説明します。
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