鉄道業界は人口減少社会への準備を始めていましたが、コロナ禍を経て移動現象が、一挙に10年分ほど前倒しになり、経営環境は非常に厳しくなってしまいました。人口増加・経済成長時代には非常に機能した阪急モデルですが、これに固執していては生き残れないという覚悟が必要です。これまで鉄道会社にとって沿線住民は都心通勤を前提に暮らす「マーケット的存在」として認識していました。マーケット・ニーズに沿った生活利便サービスを提供することが価値向上につながったのです。都心通勤という前提が崩壊したコロナ後の世界では、「人・駅・沿線のコンテンツ化」という認識が重要です。そこで生活する人達が、街をネタや舞台にして趣味や興味を花開かせ、駅で集い交流します。そしてそれぞれの駅・街で繰り広げられるドラマやストーリーの集合体が沿線で、それを遊動しながら楽しむために鉄道を利用するのです。各々の駅や街のストーリーの振幅が広いほど魅力的な沿線になります。
都心通勤を前提にしたベッドタウンの送迎拠点ではなく、自律した生活圏の中核拠点としての駅機能の見直しと、自由時間を生き生きと過ごすための遊動創発のための沿線魅力の発掘・編集・可視化の両輪が必要なのです。さらに都心とは反対側にある観光拠点を積極的に生かすことによって、その沿線のブランディングの幅が広がります。箱根、湘南、三浦海岸、高尾山、秩父、川越、日光などの文化観光資源を生かしたライフスタイルは、仕事をしながら個性ある文化刺激を体験したいニーズのある世界の才能が、長期滞在したくなる生活環境になるのではないでしょうか。都心の利便性や快適性は先進都市では標準となり、差別化できない時代だからこそ、グローバルにアピール可能な「グレーター東京ライフスタイル」だと考えます。
人・駅・沿線をコンテンツ化することができると、これをオンライン上に流通させるビジネスが可能になります。YouTubeでの配信が現実的ですが、メタ人/メタ街/リーグ/大学などのプログラムで、相対価値化された定期コンテンツとして配信していくのです。沿線のファンコミュニティが可視化できると、特別編集のコンテンツやプログラムへの参画権及びファン同士の交流などを魅力にした「沿線オンラインサロン」の開設や、コンテンツプログラムの優待利用に飲食・サービス施設の割引などを特典にして「沿線サブスク・サービス」への発展も想定可能です。
プロサッカーはリーグ戦形式で試合を繰り返し、継続的なコンテンツとして認知・定着させています。さらに試合内の様々なコンテンツを名勝負集やゴール場面集などに再編集したり、ベンチ裏の様子、選手インタビューなど様々な追加・スピンアウトしたコンテンツを魅力資産としての訴求力を高めていくのです。最先端とされる欧州のサッカークラブでは③放映権収入が過半を占めています。彼らは「集客ビジネス」から「コンテンツビジネス」、さらに「ブランドビジネス」への進化を志向しています。
次世代の沿線開発では、リアルな集客・旅客だけなく、人・駅・沿線の活動を編集してオンライン発信し、コンテンツとして目標や評価指標を明確にして価値向上を図るビジネスモデルとして、仕立てていく必要があると考えます。理想的には NFL のグリーンベイ・パッカーズのように、全員が市民株主、沿線株主としてコミットしてはどうでしょうか。「なりたい未来、好きな街、沿線は自分たちで作る」というスタンスは、ステイクホルダー資本主義の潮流に相応しいゴールと考えます。
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