都市開発は常に人・店舗・企業の誘致合戦を繰り返してきました。利便性と容積率という従来指標に最新の機能・スペックを加えて競う為、どの都市開発でも同じようなツルツル・ピカピカのビルが立ち並ぶ状況になってしまっています。このままでは先行事例を研究して最新スペックを搭載する後発開発が、常に優位になる無限&同質化競争から抜け出せないのではないでしょうか。
このような状況の中で建築において2つの先進事例が生まれました。
虎屋本店
羊羹で有名な虎屋が赤坂の本店の建て替えにあたって、それまでの10階建から4階建の建物に減築するという英断を下したのです。内藤廣氏設計の木をふんだんに使用した空間は、赤坂御所向かいの立地に相応しい風格を備えています。
KADOKAWA本社
総合メディア企業の KADOKAWA が本社を東京都千代田区の飯田橋から埼玉県東所沢に移転したのです。隈研吾氏設計による出版社らしい本の博物館「角川武蔵野ミュージアム」を併設した新本社です。
もちろん両例ともに立地や規模に対して、社内外から様々な意見が寄せられたそうです。しかしリモートワークが主流で「出社がトピック」になりつつある時代には、リアルに人を集めやすい交通利便性と規模だけを重視する必要がなくなったのではないでしょうか。オンライン1stという潮流に対応し、企業活動や企業カルチャーなどをネット上のコンテンツとしてどう発信していけるか、という視点から考えると非常に意欲的なプロジェクトだと言えます。さらに多様なステイクホルダーを巻き込んだコンテンツ発信が、より有効になるという視点で考えると、企業価値向上のためには都心のビジネス街立地よりも理にかなっているのでは無いでしょうか。
東京大学で街づくりを専攻される小泉秀樹教授は「これからの街づくりでは歴史性と真実性とが評価される」と指摘されました。交通利便性だけでなく公園や水辺などの特別感のある立地特性を活かしたり、自社のDNAや土地・建物の歴史を如何に深掘りして発信できるかが重視される時代と言えます。オンライン1stの時代には多彩なコンテンツを発信できる舞台としての街が評価されるのです。まさに「経営資源としてどの街を選ぶか?」によって企業価値が左右される時代と言えます。
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