Ⅰ 「食」=美味追求? /Ⅱ 会食の価値と可能性 /Ⅲ 次世代の「会食」価値づくり
Ⅰ 「食」=美味追求?
2021年1月31日に東京都葛飾区柴又にある川魚料理の老舗料亭「川甚」が閉店しました。コロナ禍で各地の飲食店が苦境に喘ぐ中、映画「男はつらいよ」の舞台にもなった名店の閉店です。老舗を支えるのは主に中高年客で、感染を恐れて外出しなかったり、大人数の宴会を取りやめたりする客が多く、特に打撃を受けてという事です。政府や東京都の支援事業への対応にはサイト登録などが必要で、老舗関連のネットを使えない店や客は恩恵に与れない状況と言えます。
料亭とは、主に日本料理を出す高級飲食店で、企業の接待・宴会や商談、要人や政治家の打ち合わせなどに使われます。日本文化の結晶とも言え、料理・器・数寄屋造・日本庭園・美術品・芸妓・邦楽などの正統派の日本文化を堪能できる場所になってきました。
料亭はもう時代遅れなのでしょうか?「食」は単に自分が美味しいものを食べることがゴールなのでしょうか?「グルメ」として取り上げられるお店は、厳選した素材に手間をかけ、美味を追求するプロと言えます。でも少し間違えると、いつの間にか単一価値だけを求めるようになってしまいます。よく例に出される「時計」で考えてみると、当初はスイスが精密機器のメッカとして君臨していましたが、セイコーなど、正確さ・使いやすさ・大量生産を得意とする日本企業に圧されました。事業継続の方策を必死で模索した結果「時を刻む宝飾品」としての価値を極めたブレゲやリシャール・ミルなどの創造にたどりついたわけです。「カメラ」や「自動車」についても同様の流れが見えます。山口周氏の言葉を借りるなら「役に立つ」から「意味のある」価値提供に舵を切り、新しい市場を形成した事例です。
食の世界でも「美味の追求」だけではない、価値づくりにも目を向けるべきだと考えます。
それが料亭に代表される他人との関係機会として外食ではないでしょうか。デート、ビジネスディナー、レセプション、公邸会食など、視野が狭くなりがちな現代のネット社会だからこそ必要な、リアル空間での「会食」価値だと考えます。
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