都市のクオリア指標を高める方法として最も分かり易い「文化・芸術機能」ですが、これも単にコンサートホールやミュージアムを整備するだけでは、通り一遍の効果にとどまると考えています。デジタル技術の進展で様々な音楽やアートに触れる機会が圧倒的に増えた現代では、単に鑑賞の対象としてよりもアーティストやミュージシャン本人及びそのファンとの体験共有が重要になるのではないでしょうか。ですからコンサートホールよりもライブハウス、ミュージアムよりもアトリエなどの制作空間を整備する方が、アーティストなどとの距離感も近くより多様な側面に接することが出来て有効だと考えます。
さらに一歩踏み込んで文化・芸術活動が街の日常の一部に定着すると素晴らしい効果をもたらします。「大道芸ワールドカップ」は毎年11月初旬に静岡で開催されます。駿府公園とメイン商店街を会場として、世界的なパフォーマーが集い大変な賑わいを作りますが、20年以上開催されている為、パフォーマーに引き込まれた見物客のノリは大阪人以上ですし、投げ銭も東京を凌ぐ金額になります。クラウンとして積極的に参加する市民も多く、大道芸が文化として定着することで、ノリが悪いと言われた静岡人の気質を変えてしまった感があります。
「まちライブラリー」は商店、飲食店・バーから歯医者まで、誰でもどこでも「図書館化出来る仕組み」で、全国に900箇所近くが展開しています。提唱者の磯井さんは「10人が好きな本5冊を持ち寄れば、50冊のライブラリーになる。自分が寄贈した本に興味を持つ人がいれば、その人とは趣味の共通点などで会話が弾む可能性が高くなる。」と言います。本がコミュニケーションの媒介になり、街の至る所に人が語り合える舞台が生まれているのです。
鑑賞として文化・芸術を超えて街の日常に定着できると、ビジネスシーンだけでは得られないネットワークと視野の広がりとを獲得できる機会になります。
【文化・芸術機能による多様性拡張:街の日常に非日常なネットワークと視野を呼び込む機会づくり】
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