【内容】
通勤前提の事業モデルの崩壊
サブスクサービスの模索
駅業務の合理化の限界
1.通勤前提の事業モデルの崩壊
これまで大手私鉄各社は、都心通勤というライフスタイルを前提に、沿線価値の向上を図ってきました。
沿線価値とは「利用者数×ブランド力(=高所得)」と定義されます。
都心と郊外を結ぶ私鉄各社は、「阪急モデル」と言われる「鉄道、宅地開発、都心商業」をセットにした事業経営で、「住む、移動する、買う」という消費ポイントを抑えてきました。
鉄道沿線での宅地開発を積極的に行い、沿線人口を増やし、都心通勤利用者の拡大を図ってきました。
宅地開発単体では収益が低くても、駅ビルや都心ターミナルの商業施設の利益や、通勤に伴う鉄道運賃を合算していくことで、安定した収益の事業モデルを構築してきたのです。
ところが、テレワークの浸透により、都心への通勤旅客者数は大幅に落ち込み、収益の柱でもある通勤定期の解約も本格化しています。
通勤定期の解約は、それ単独の収入減少だけでなく、通勤帰りの駅ビルへの立ち寄りや、定期券を利用した休日の都心ショッピングの機会に悪影響を及ぼしています。
そして「どこででも働ける=どこにでも住める」という状況が、「通勤〇〇分」という住宅地の沿線ヒエラルキーを覆し、鉄道沿線住宅の優位性を失わせています。
まさに、都心への通勤を前提にした事業モデルそのものが、崩壊したと言えるのではないでしょうか。
2.サブスクサービスの模索
鉄道会社の損益分岐点は約8割といわれ、固定費が極めて高いため、通勤客数の減少を補う方策を模索しています。
売上アップ方策としては、サブスクリプション・サービスがあります。
通勤や通学の定期券は、月額定額制の「元祖サブスク」と言えるもので、そのサービスを周辺に拡充し、単価アップを図ろうというものです。
例えばJR東日本は「JREパスポート」を提供しています。
これは、駅のコーヒーが月額3,500円で1日3回まで無料で飲めたり、パンやビールなどが、半額になるというサービスです。
また、東急電鉄の「Tuy Tuy」では、駅構内だけでなく、沿線のバス、映画や食事などが一体になったサービスを提供しています。さらにホテルとも連動した、「tsugi tsugi」などもあります。
いずれも、沿線をひとつのマーケットと見立てて、様々な生活サービスをパッケージ化した、定額制のビジネスモデルで、鉄道会社らしいサービスだと言えます。
ただ、消費が一巡し、新たなニーズを生み出しにくい成熟市場では、パッケージ化されただけでは、なかなか売り上げが増えるという状況ではないようです。
3.駅業務の合理化の限界
一方 コストダウン方策としては、駅業務の自動化を推進し、人件費の削減を図ろうとしています。
JR東日本では、「みどりの窓口」などの有人発券業務を廃止し、どんどん自動券売機に切り替えています。
近年では、地方だけでなく、首都圏でも、東京メトロや京王電鉄などで無人改札口が増えました。
ところが、さまざまな事案や事故による「運転見合わせや遅延」などの、いわゆる「異常時」対応するために、一定数の駅係員の配置が必須になっています。
駅業務の合理化には限界があるということです。
この異常時に対応するための待機人員によって、通常時を活用した収益事業を生み出す必要があるのです。
沿線の観光商品を企画したり、街と連携して集客イベントを検討したりしていますが、なかなか事業として軌道に乗らないのが実情です。
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