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共体験研究の変遷 共体験デザイン ③

  • 執筆者の写真: admin
    admin
  • 33 分前
  • 読了時間: 4分

【内容】

第1章 共体験研究の萌芽と概念の確立

第2章 共体験の社会的接合と都市研究への展開

第3章 共体験の測定・検証と都市開発への統合

 

第1章 共体験研究の萌芽と概念の確立

都市開発における「共体験」の研究は、1960年代から80年代にかけて、公共空間における人々の行動観察から始まりました。

ウィリアム・ホワイトの『The Social Life of Small Urban Spaces』(1980)は、小さな広場や街角に人が集まる理由を映像記録し、日照や椅子、食の存在、偶然の出会いが人々を引きつけることを示しました。

また、ヤン・ゲールは『Life Between Buildings』(1971/英訳1987)において、都市の価値は「建物そのもの」ではなく「建物の間に生まれる生活」にあると強調しました。

この時期には「共体験」という言葉自体はまだ使われていませんでしたが、人々の偶発的な交流や短い会話が都市の魅力を形づくることが強調されており、共体験の原型を抽出する研究が積み重ねられたのです。

 

1990年代から2000年代初頭にかけては、経済とデザインの両面から体験価値が注目されました。

パインとギルモアの『Experience Economy』(1999)は、消費の価値が「モノ」から「体験」へと移行していくことを提唱し、都市や施設も体験を提供する舞台として捉え直されました。

同時期、北欧や北米では住民参加型デザインやタクティカル・アーバニズムが広まり、街を「共に作り、共に楽しむ」動きが加速しました。

この流れは、都市を単なるインフラや商業施設の集合体ではなく、人々が共に過ごすことで価値を生む舞台へと再定義する契機になりました。

そして2000年代中盤、HCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)分野で「Co-experience」という概念が明確に定義されました。

バタルビー(Battarbee, 2004)は博士論文において「体験は個人の内部に閉じるのではなく、他者とのやり取りによって意味づけられる」と論じ、これを「共体験」と位置づけました。

さらにBattarbee & Koskinen(2005)、Forlizzi & Battarbee(2004)によって理論が体系化され、ユーザー体験研究は個人中心から社会的相互作用中心へと拡張されました。

ここに至って「共体験」という学術概念が確立し、都市開発に応用可能な理論的基盤が整ったのです。


第2章 共体験の社会的接合と都市研究への展開

2010年代に入ると、共体験の議論は社会インフラや多文化共生の研究と結びつくようになります。

社会学者エリック・クリネンバーグは『Palaces for the People』(2018)で、図書館や公園、公民館といった公共施設を「社会インフラ」と呼びました。

これらは人々が自然に集まり交流する場であり、共体験が社会的結束を強め、災害時のレジリエンスを高めると論じています。

つまり共体験は単なる楽しみの装置ではなく、都市の安全性や持続性を支える基盤であることが示されたのです。

また、アッシュ・アミンは多文化都市論の中で「マイクロ・パブリック」という概念を提示しました。

これは大規模イベントではなく、日常的なカフェや広場での小さな交流が異質な人々を結びつける役割を果たすという考え方です。

都市は多様な文化・世代が集まる場であり、共体験はその接着剤として機能するという指摘は、都市開発における社会的包摂性の重要性を明らかにしています。

このように2010年代は、共体験が「都市の魅力」や「商業価値」を超えて、社会資本や多様性共生の観点からも不可欠であると再定義された時期でした。

都市開発に携わる人々にとっても、共体験の設計は「文化的付加価値」の域を超え、都市の持続性を左右する要素として認識されるようになったといえます。


第3章 共体験の測定・検証と都市開発への統合

2020年代に入り、共体験研究はさらに深化し、都市開発の実務と直結する段階に進みました。

デ・ランゲの「Playful City」構想は、都市空間に遊びやゲームを取り入れることで、市民の参加と交流を促進するアプローチを提案しました。

これはエリアマネジメントやデータ活用とも結びつき、共体験を都市運営の仕組みの一部とする試みです。

さらに心理学の研究成果も加わりました。

シュタインバーグ(2014)の「Shared Attention Theory」は、人が同じ対象に注意を向けることで感情や記憶が強化されることを示し、ウィルターマス&ヒース(2009)の研究は、歌や運動といった「同期的な行為」が協力を促すことを明らかにしました。

これらは、共体験が単なる感覚的な楽しみではなく、人間の心理的・社会的行動に深く根ざした現象であることを裏付けています。

また、スマートシティの実装によって、センサーやデータ分析を活用し「どのような場面で共体験が生まれたか」を測定・検証することが可能になりました。

これにより、共体験は都市開発における投資効果の評価指標(KPI)として活用できる段階に入っています。

文化的価値、経済的価値、社会的価値が統合的に測定可能となった今、共体験は都市を設計する上で欠かせない「新しいインフラ」として位置づけられつつあります。

 
 
 

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