第10章 Stayable TownからLovable Townへ
― 成熟社会が目指す新しい街づくり ―
【内容】
1.Walkableだけでは街の魅力は生まれません
2.Stayableが街への愛着を育てます
3.街づくりは「文化を育てる仕事」になります
1.Walkableだけでは街の魅力は生まれません
近年、日本でも「ウォーカブル(Walkable)」という言葉を耳にする機会が増えました。
歩きやすい歩道を整備し、自動車中心だった街を、人が安心して歩ける街へ変えていこうという考え方です。
もちろん、この方向性はとても重要です。
歩けない街では、人は街を楽しむことができません。
しかし、今回メルボルンを歩きながら感じたのは、歩きやすいことだけでは、人は街を好きにはならないということでした。
メルボルンには、歩きやすい道があります。
しかし、それ以上に魅力的だったのは、「思わず立ち止まりたくなる場所」が街中にあることです。
カフェの前で。
レーンウェイで。
広場の階段で。
図書館の前庭で。
ヤラ川の芝生で。
人々は目的地へ急ぐのではなく、その街で過ごす時間そのものを楽しんでいました。
歩けることは、街づくりの出発点です。
しかし、本当に豊かな街とは、「歩いたあとに、もう少しここにいたい」と思える街ではないでしょうか。
それが、私がメルボルンで感じた最も大きな学びでした。
2.Stayableが街への愛着を育てます
私は今回の視察を通して、街づくりにはもう一つ大切な段階があると考えるようになりました。
それが、「Stayable(滞在したくなる街)」です。
ベンチがあるから座るのではありません。
居心地が良いから座る。
カフェがあるから入るのではありません。
その街で過ごす時間が心地よいから立ち寄る。
こうした日常の小さな滞在が積み重なることで、人は街に親しみを感じるようになります。
そして、その街で過ごした時間が思い出となり、「また来たい」「ここに住みたい」という気持ちへと変わっていきます。
つまり、
Walkable は「移動」を生み、
Stayable は「滞在」を生みます。
そして、その先にあるのが、
Lovable(愛される街)です。
愛される街とは、有名な観光地という意味ではありません。
そこに暮らす人も、訪れる人も、「この街が好きだ」と自然に感じられる街です。
街への愛着は、大きなイベントではなく、毎日の小さな体験から育っていくのです。
3.街づくりは「文化を育てる仕事」になります
このシリーズでは、メルボルンの街を歩きながら学んだことを整理してきました。
Mixed Use。
Active Frontage。
レーンウェイ。
ヤラ川。
広場。
図書館。
コーヒー文化。
街の行動OS。
一見すると、それぞれ異なるテーマのように見えます。
しかし、その根底には一つの共通した考え方があります。
それは、「街は建物によって完成するのではなく、人々の日常によって育つ」ということです。
建物は街の器です。
その器の中で、人々が歩き、座り、語り合い、学び、働き、遊び、文化を育てていくことで、初めて街は魅力を持ち始めます。
だからこそ、これからの街づくりは、不動産を供給する仕事だけではありません。
人々が街で豊かな時間を過ごし、新しい文化を育てられる環境をつくる仕事へと進化していく必要があります。
私は、この変化を「建物をつくる街づくり」から、「文化を育てる街づくり」への転換だと考えています。
メルボルンは、その未来を少し先に歩いている街でした。
もちろん、日本とオーストラリアでは歴史も制度も文化も異なります。
そのまま真似をすることはできません。
しかし、「街は人の行動によって育つ」という考え方は、日本でも十分に生かすことができるはずです。
街づくりに完成形はありません。
人々の暮らしが変われば、街もまた変わり続けます。
だからこそ、私たちは建物を完成させることを目標にするのではなく、人々がその街を好きになり、文化を育て続けられる環境をつくることを目指したいと思います。
それが、成熟社会における新しい街づくりであり、このメルボルン視察を通じて私がたどり着いた結論でした。

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