方策3 「個」の創造力を活かせる構造 シン都市経営 ⑨
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【内容】
背景と問題の所在
課題の構造と影響
処方箋と具体事例
1.背景と問題の所在
東京には多彩な個人が暮らしており、斬新なアイデアや強い情熱を持つ人も少なくありません。
しかし、行政主導のプロジェクトや大企業のまちづくり計画などに「個」が気軽に参加する機会は限られているのが現状です。さらに、個人が自らの想いを表現したり発信したりする場も限られており、大きな資本や注目度を得た“一部の勝者”のみが目立ちやすい構造になってしまいます。
このような状況がもたらす問題は、都市の創造力が特定の組織や専門家に集約され、多様性が損なわれる点にあります。
多様な経験やストーリーを持つ人々がいるにもかかわらず、それらが都市価値に十分に反映されにくいため、街が一面的になりがちです。
また、個人が何か新しいことに挑戦したくても、“失敗が許されない”という意識や制度面のハードルが存在し、結果的にチャレンジを断念してしまうケースも少なくありません。
さらに、都市を評価するときに用いられる指標が、売上や動員数などの短期的な成果に偏りすぎる問題もあります。
長期的な文化醸成や市民の自己表現といった要素が軽視されることで、都市全体の持続的な魅力を育む機会が失われるのです。
こうした背景を踏まえると、「個の創造力」を活かすための仕組みづくりが急務だといえます。
2.課題の構造と影響
まず、行政や公共空間が「個の挑戦」を想定していないことが大きなネックになっています。
許可手続きの煩雑さや厳格なルールによって、一日限りの小さなイベントやポップアップショップでさえ実施が難しい場合もあります。
都市が活気を帯びるには、多様な実験と挑戦を受け入れる柔軟さが欠かせませんが、その制度設計が追いついていないのです。
次に、「失敗が許されにくい文化」も、挑戦をためらわせる一因となっています。
新たな試みを失敗から学びながら少しずつ育てていく過程は本来不可欠ですが、“一度失敗したら終わり”という空気感が根強く、気軽なトライアルや小規模の実験が阻まれてしまいます。
結果として、真に多様なアイデアや才能が埋もれやすい構造となっています。
また、評価軸が画一的であることも問題です。
目先の収益や集客数を最優先する姿勢は、短期的には成果を上げやすいものの、地域住民の創造的参加や文化の醸成といった長期的・質的な発展を見落としがちです。
こうした状況が続くと、都市のアイデンティティや豊かな暮らしの可能性を狭めることにつながります。
3.処方箋と具体事例
処方箋と具体事例これらの課題を解決するための第一の処方箋として、「小さな実験ができる“ゆるい制度”の導入」が挙げられます。
たとえば、大阪・中之島で行われている「社会実験制度」では、行政が公共空間を使った試行的な活動を認め、個人や団体がイベントやサービスを気軽に試せるようにしています。
東京でも河川沿いや公園、商店街などで同様の制度を取り入れ、短期間・小規模であれば自由に実験できる仕組みを整備することで、「個の試行」が都市に埋め込まれ、可視化されるはずです。
第二の処方箋として、「個」を応援する支援制度の多様化が必要です。
具体例として、NPOグリーンズが運営する「ローカルグッド・ファンド」があります。これは資金だけでなく、メンターの紹介や広報支援、さらには同じ志を持つ仲間との接続といった総合的なサポートを行う仕組みです。
都市においても同様に、挑戦したい個人に対して伴走支援やコミュニティファンドなどを整備し、アイデアの段階から事業化までをサポートしていくことが求められます。
第三の処方箋は、「都市そのものをキャンバスとした創造支援」です。
アーツ前橋の「マチトソラ芸術祭」では、地域の生活空間や商店街を舞台に、アーティストと住民が協働で作品を生み出しています。
東京でも、商業施設やビルのオープンスペースを開放し、市民やアーティストが「自分ごと化」したプロジェクトを自由に展開できる環境をつくることで、都市が創造の場として機能するようになるでしょう。
これらの取り組みを実現するには、行政だけでなく、企業や市民団体、そして個人を含む多様な主体が手を携えながら制度設計や文化づくりを進めることが欠かせません。
小さな実験や失敗から学び合う風土を育み、長期的な視点で都市の魅力を高めることこそ、東京が持つ豊かなポテンシャルを最大限に引き出す鍵といえます。
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